株式会社 艶金
あずき、うめ、ピーナツ、ブルーベリー、パセリ、くり…日本のくらしにとけこむ温かみがあり、不思議となぜだかほっと感じる食材独特の「色」。 私たちが普段口にする食材の使わない部分「のこり」(食品残渣)で天然繊維を染める「のこり染」という染色方法を確立後、デザイナーを活用しブランディングを成功させ「KURAKIN」シリーズを展開している株式会社 艶金の社長 墨氏に「のこり染」の事業展開について話を伺った。
Q.一般ユーザー向けの商品開発をされたのはなぜですか?
- 墨:明治22年の創業以来120年間、繊維染色加工業を営んできましたが、様々な商環境の変化を経験し、弊社のものづくりにも新しい風が必要だと感じていました。特に平成に入り、多くの生産加工の拠点が海外に移った結果、糸や織物は海外からの調達になり、国内生産量は減少する一方です。弊社としてもただ傍観するのではなく、「染色」という得意分野を活かして、自社の新商品を開発し、販売するしかないと思いました。そこで、従来とは異なる洋服生地以外の新しい染色の方向へ舵を切りました。 そして、弊社の主な事業である衣料品向けの染色は、大量の水とエネルギーを消費しますので、エコとは言いがたく、まず、そのエコの部分を何とかしたいと考えていました。また、市場に目を向けると、安価な海外製品が大変多く、個々の製品寿命が短い。その結果、消費者が安易に廃棄や購入を繰り返すようになっており、そのサイクルに疑問を感じていました。 そこで、エコへの視点だけでなく、日常生活の中で長期間に亘って、心地良く使える製品を求める方に向け、個人の嗜好やライフスタイルに合う付加価値を持つ製品を提供しようと、染料をキーワードに高品質で日本製にこだわったアイテムの開発を模索していました。
Q.「のこり染」という染色方法に至ったきっかけについて教えてください。
- 墨:最初は、仕事で関係があった岐阜県産業技術センター(以下、センター)の方から、センター主催事業の商品発表会をご紹介いただき、その商品発表会に伺ったのがきっかけです。そこで、岐阜県内の大手ピーナツメーカーから廃棄される渋皮を食品として再利用する研究を知りました。 そこでお会いしたセンターの方との会話がきっかけとなり、ピーナツの渋皮などを染料として再利用する染色方法の共同研究がスタートしました。 それからは、ピーナツの渋皮だけでなく、弊社独自で染料となる素材を探し始め、何社もの食品メーカーに分けてもらうようにお願いして回りました。 現在では、「のこり染」としてピーナツ、あずき、だいず、パセリ、ウーロン、コーヒー、ワイン、くり、かき、うめ、ブルーベリーの素材から11色の染料を開発し使用しています。
Q.この食品由来の染料の開発で苦労された部分について教えてください。
- 墨:自然の素材が相手ですので、収穫期にしか手に入らなかったり、ようやく手に入れた材料がすぐに腐敗したり、色の再現性が悪かったりなど、多くの問題点がありました。そこで、この問題を解決するため、材料の保管、色素の抽出や染色条件に関する技術を、弊社のベテラン職人がセンターの方々と共同で研究し、約1年間に亘り試行錯誤し、ようやく確立できました。ただ、一番の弱みは、日光や水濡れによる変退色です。これは、実際に染めてみて初めて分かったことでした。現在は、これを解決するため、必要最低限の化学染料や化学薬品を使用しています。また、その食品が持っている色やイメージする色が必ず出るわけではないので、最終的に染料として商品に使用できないものがあったり、繊維の種類により仕上がりの色に違いがあったりもしました。
Q.「KURAKIN」シリーズの開発について教えてください。
- 墨:弊社のものづくりにおいて「染色」は外せないキーワードです。色合いのみならず、「のこり染」との相乗効果を期待できる日本製の高品質な生地を使うことが最も重要でした。そのため、生地は1アイテム1社を製品づくりの原則とし、自信の持てるものだけを厳選して製造してきました。例えば、製品であるタオル1つにしても、全国のタオルメーカーからたくさんのタオルを取り寄せ、試験を行うなど慎重に連携できるメーカーを模索しました。結果、20年前に関わったことのある三重県のおぼろタオル株式会社と連携することとなり、現在ではフェイスタオルやバスタオルだけでなくベビー用品まで幅広く展開しています。また、製品の企画においては、随時デザイナーや企画会社と連携するとともに、社内体制も刷新し、生地の手配や縫製から検品、検針、梱包出荷業務まで一貫した生産体制を構築しました。
Q.ブランディングにおけるデザイナーとの連携について教えてください。
- 墨:「KURAKIN」シリーズは販売も自社で行うことを念頭に、独自のブランディングを成功させることが最も重要だと考えていました。しかし、元々、弊社のビジネススタイルは他社が製造した布地を染め、次の工程へ渡すのが仕事です。自社で最終商品を製造し、販売した経験などあるわけがありません。一般ユーザー向けの事業展開をしていくにあたり、今までとは違ったアプローチの必要性を感じていました。そこで、デザイナーと連携し、コンセプトを一つのイメージにまとめ上げ、ブランディングすることを試みました。連携するデザイナーは、経済産業省や岐阜県に相談して、「DRILL DESIGN」に決めました。 既に社内では大まかな企画から試作品の制作までを進めてきていましたが、「DRILL DESIGN」にはブランディングを成功させる意味でも重要なポイントである商品と販促ツールやパッケージ、ロゴマークのデザインに関する部分を依頼しました。このようにして、デザイナーによる総合的なディレクションのもと、何度も意見交換を重ね、ブランディング戦略を作り上げることができました。
- また、この製品企画を進めると同時に、食品残渣を使った染色方法自体を「エコ」なものとしてブランド展開することも考えていました。「KURAKIN」シリーズの打ち合わせの中で、この染色方法のブランド名については「のこり染」とすることに決めました。こうしたイメージの擦り合わせの中で、この新事業におけるブランディングが確立されていきました。
Q.「KURAKIN」シリーズの販路開拓についても教えてください。
- 墨:やはり一般ユーザーに直接販売することは新業態での最大の挑戦でした。とにかく初めてのことが多く手探りでした。 まず、2008年11月に「インテリアライフスタイル リビング/IFFT展」に出展し、製品に関するアピールを行いました。知名度が当初は全くのゼロでしたが、継続的な展示会出展によるPR活動など、地道にブランドの認知向上を図った結果、現在では、一般小売店や卸での販売だけでなく、カタログ販売、カタログギフト、通信販売、インターネット販売にまで、広く採用されています。一度、購入してファンになってくださったユーザーのリピート購入率がとても高いのです。また、岐阜県より中小企業販路開拓等支援事業助成金を受け、展示会へ出展したり、販路を紹介していただいたりしています。 「KURAKIN」シリーズと共に「のこり染」を打ち出した展示会では、予想外の反響がありOEMの引き合いが増えています。OEMについては、弊社が展開している「のこり染」の色(11種類)で染色したアイテムを提供するOEMと、クライアント側が別の食品残渣や花などを持ち込み、それらを染料にして「のこり染」をした限定製品を提供するOEMを展開しています。両方とも依頼先が販売する際に「のこり染」というブランド名を表示することになっています。ただし、注意していることは、「のこり染」OEM商品が弊社の「KURAKIN」シリーズと重複しないようにすることです。例えば、おぼろタオルとのコラボを知った他社から、その会社のタオル製品に「のこり染」を施してほしいという問い合わせがありますが、自社ブランドの育成のためお断りしています。
Q.今後の展望についてお聞かせください。
- 墨:弊社は本業である繊維染色加工で生き残るために、日本製にこだわり、多品種少量生産を基本に自社が保有する数多くの加工技術を最大限に活かし、直接小売業者やアパレルなどの顧客に対応しています。 また、今後も「のこり染」という特徴のある染色技術のレベルアップと「KURAKIN」シリーズの認知向上に努め、日本製にこだわったものづくりで国内外に広くアピールしていきたいと思います。