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INTERVIEW:登録企業の魅力をご紹介

井上金庫販売 ㈱ × ㈱ ウェイストボックス

近年、産業の成長分野として「環境・エネルギー」が注目されている。1997年の温室効果ガス削減に関する京都議定書、2010年のCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)など、国際的な場で環境に関するルールの整備が進み、世界的にも温室効果ガスの削減を求められるようになった。そういった意味でも、環境配慮型商品の開発は大変重要なテーマとなっている。
そこで、現在のエコデザインの先端的な取り組みであるカーボン・オフセットを取り入れた開発について、商品開発を行った井上金庫販売株式会社の名古屋営業所 所長 辻氏と、その導入をサポートした株式会社ウェイストボックスの社長 鈴木氏の両氏に話を伺った。

カーボン・オフセット パーティション画像

Q.環境配慮型の商品を作ろうと思ったきっかけは何ですか?意外とハードルが高いと思うのですが…

  • 辻(井上金庫販売):井上金庫グループは金庫の製造販売からスタートした会社ですが、金庫需要の減少から金庫の製造技術を応用できる商品としてオフィス家具に着目し、その企画・製造・販売を手がけるようになりました。その後、オフィス家具の製造も、昨今の流通革命などによる価格破壊により、そのままでは立ち行かなくなりました。そこで、東南アジアを中心とした海外製造による逆輸入方式のビジネス展開に切り替え、現在に至ります。ですが、足下を見ると、為替動向、海外の政治動向など、不安定要因は多く、見えないリスクがビジネス環境を左右する状況にあります。この現状から少しでも脱却するため、新たなテーマでのオフィス家具開発を考えるようになりました。キーワードは「皆様のお役に立つ」。いろいろと探した中から環境配慮をテーマに定め、商品開発をしようと思い立ったのです。

Q.どんな商品になったのですか?

    カーボン・オフセット パーティションを持ち上げる鈴木氏の写真
  • 辻(井上金庫販売):この白いパーティションです。カーボン・オフセットして販売しています。
    このパーティションのパネルはペットボトルを粉砕し、綿状にし、圧縮加工をしたものです。それ以外は何もしていません。再生ペット100%です。だから、壊してまた再生できます。このような再生ペット100%のものはなかなかありません。しかも、四国の企業で製造してもらっています。カーボン・オフセットについては認証取得を含め、ウェイストボックスさんにお願いしました。
  • 鈴木(ウェイストボックス):このパネルを初めて見たとき、色がとてもきれいな白であることに感心しました。再生素材ではここまで白くできないんですよ。通常だと、どうしても黒ずんでしまうので、白で塗ったり、コーティングをしたりするんです。フレームはアルミだから意外と軽いですね。アルミは製造工程での環境負荷は高いですが、長寿命で、リサイクルが効きます。
  • 聞き手:パネルとパネルの接合部はどうなっているのですか。
  • 辻(井上金庫販売):工具なしで脱着できます。簡単です。この部分の仕様はオフィス家具メーカーである弊社独自の技術を活かしています。

Q.どのように連携されたのですか?

  • 辻(井上金庫販売):それが、偶然が重なったんです。
    まず、パネルを製造している企業に出会うところから偶然が始まりました。私が九州に行っていた折、選挙期間に貼り出されるポスターボードがたまたま目に留まり、それが再生ペットでできていることを知ったんです。それをヒントに再生ペットでパネルを作ることを思いつきました。そこで、その製造元を探して訪ねると、四国の布団屋さんだったのです。その布団屋さんにパーティションのパネル制作にご協力いただき、何度も試作してもらってようやく形になりました。
    また、そのパネルの開発中に、東海地域の企業の方から、カーボン・オフセットについてお聞きし、ウェイストボックスさんを紹介していただきました。
    この2つの偶然で今回の連携が生まれました。

Q.この商品のカーボン・オフセットのポイントを教えてください。

  • カーボン・オフセットマーク 鈴木(ウェイストボックス):そもそも、カーボン・オフセットとは、CO2などの温室効果ガスについて、その削減活動に投資することで、排出分を埋め合わせるという考え方です。実際にはオフセット・クレジット制度(J-VER)という排出権のやり取りを活用します。例えば、国内の森林組合などによるJ-VER を使用した商品を購入した場合、その組合の森林保全活動に参加したことになります。このように、カーボン・オフセットには環境における富を再分配する機能があるのです。
    カーボン・オフセットには大きくいって「PRする」と「見える化する」の2つの方向性があります。「PRする」だけにJ-VERを活用すれば、環境負荷の有無に関わらず、どの企業でもカーボン・オフセットすることができます。
    一方、井上金庫さんの場合は製造において環境に負荷をかけているメーカーとしての責任もありますので、質の高いカーボン・オフセット商品にすべきだと考え、「見える化」を重視して進めたわけです。
    鈴木氏の写真 手順としては、まず、CO2排出量の調査から入り、カーボン・オフセットの認証取得を目指しました。
    調査には、LCA手法を使っています。通常の調査では、製造工程の一部を取り出して調査することが多いのですが、今回は、製造全行程の現場に足を運び、全ての部品の重量の測定など、丁寧に計測作業を進めました。梱包段階の段ボール、ビニールバンドにまで着目し、細かい所までしっかりとCO2排出量を算定しています。一般的にここまでやるケースは稀で、そこは他と大きく違う点です。ただ、分かる人にしか分からないところでもあります。
    また、カーボン・オフセットで売買される排出権にもランクがあり、国内物は高く、また、自治体関係はさらに高い。その最高ランクで、富山県の森林組合のJ-VERを使用しています。今回の趣旨としては同じ量のCO2を削減するにしても、海外の森林保全ではなく、国内 富山の森林保全に回る。井上金庫さんの本社が福井県にあるので、その観点から見れば同地域の森を育てる活動につながる仕組みになっています。
    カーボン・オフセットの調査もしっかり行い、排出権もグレードの高いものを使用しているので、質としてもとても高いものになっています。この質の高さが環境省に評価され、支援制度の対象に選ばれました。
  • 辻(井上金庫販売):これは北陸初の事例になり、地域的にもインパクトがありました。

Q.カーボン・オフセットを行うにあたり支援制度があるのですか?

  • 鈴木(ウェイストボックス):実際に、カーボン・オフセット認証取得は自費でもできますが、環境省が普及させたいモデルについては認証にかかる費用の一部を支援してもらえる制度(カーボン・オフセット認証取得支援制度)があり、それを活用しました。全国で60件程度の応募があり、その中に入れて本当に良かったですね。

Q.開発についての苦労はありましたか?

    辻氏の写真
  • 辻(井上金庫販売):どんな商品を開発するにしてもそれなりの苦労はありますので、この商品が特に苦労したということはありません。ユーザーに近い目線での製品開発を心がけ、白さにこだわったことで、パネルを制作していただく連携先には苦労をかけましたが、開発よりも、販売の仕方に難しさを感じています。今までの商品群とは大きく異なりますので、新しい販路として環境面に対して意識の高い企業にPRしていく必要があります。また、社内でもカーボン・オフセットについて丁寧に説明できる人材が少ないという課題もあります。今後はその点にも力を入れてこの商品の拡充を図っていきたいと考えています。
  • 鈴木(ウェイストボックス):カーボン・オフセットの商品は、販売する側がしっかりとした知識を得ることが大切です。大手企業は販売部門にカーボン・オフセットの研修を何回も行っていますね。

Q.メーカーとして今回の連携のメリットは何ですか?

  • 辻(井上金庫販売):新しい言葉を知り、その背景を知ることができる、これが一番ではないかと思います。そして、新しい概念を取り入れることで、今までにない切り口で新たな商品開発やステータスを持つことにつながると思います。また、販売経路も従来とは違いますから、普段のアプローチでは知り合えない方々と出会える機会ができました。これまででしたら、大手企業や行政の方々とはほとんど知り合うことはなかったと思います。しかし、カーボン・オフセットの会合では皆さんと席を並べることができます。弊社のような中小企業には信じられないことです。
  • 鈴木(ウェイストボックス):そうですね(笑)。でも、カーボン・オフセットの観点からみると井上金庫さんの場合は大手企業と同等の内容ですよ。そうしてみると同じレベルで話をするのは当然ですよね。

Q.今後の展開は…

  • 辻(井上金庫販売):今後も環境配慮型のオフィス家具を考えていきたいと思っています。そして、こういったことをきっかけに、少しでも良いイメージを持っていただけたらうれしいですね。
    もちろん、今までの商品も売上の大事な柱なので、そのイメージを壊すつもりはありませんし、電話、複合機の中古販売も行っていますので、安心した価格設定によるオールインワン・パッケージなども作って、そちらはそちらで拡充していきたいです。
    ですが、環境に配慮した高付加価値商品の製造販売を行う中で、社会貢献も行っている企業という今までとは違うイメージを持ってもらうことで、業務の幅が出てくると思います。ですから、こちらのPRもじっくりやっていきたいです。
  • 会話する辻氏と鈴木氏の写真