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INTERVIEW:登録企業の魅力をご紹介

株式会社 ワーロン

破れにくい障子紙として知られ、強化和紙の代名詞とも称される「ワーロン」。
平成24年に創業90周年を迎えた名古屋のインテリア素材メーカーであり、代表製品の「ワーロンシート」の活用については、早い段階からクリエイティブな活動をする方々と連携し、和風空間に新たな価値を生み出し続けている。そのブランド戦略とブランドホルダーとしての経営について、社長の渡辺氏と営業部企画室の佐藤氏に話を伺った。

ワーロンシート写真

  • 聞き手:最初にブランドには欠かせない製品についてお教え下さい。
    製品のコンセプトには“「Wa-fu」空間の創造”を掲げられていらっしゃいますね。
  • 渡辺(社長):そうですね。弊社の製品は建築・インテリア用途を目的に、破れる、燃える、水に弱いなど、紙の欠点に対して耐久機能を付加したものです。製品開発以来、インテリア、ディスプレイ、照明器具等に採用され、建築家やデザイナー等のクリエイティブな活動をする方々(以下:デザイナー)と一緒になって、和風空間の創造に力を入れてきました。現在は、国内だけではなく、海外からも「Wa-fu」を表現する素材の一つとしてご活用いただいています。

《CIによるブランドイメージの構築》

  • 聞き手:ブランド名については代表的な製品名と社名が同一ですが、その理由について社歴と共にお教え下さい。
  • 渡辺氏写真
  • 渡辺:弊社は1922年に名古屋で最初のセルロイド玩具製造業として創業し、「メリーゴーランド」「眠り人形」「ミルク飲み人形」などのセルロイド玩具を手がけてきましたが、当時のセルロイドは極めて燃えやすいため、玩具とは別に難燃性樹脂の開発にも努めてきました。その後海外から美術工芸ランチョンマットの製作依頼があり、難燃性樹脂の研究で使用したプレス機の活用の過程で和紙と硬質塩ビのラミネートに成功して水洗いのできる障子紙「ワーロンシート」が誕生しました。
    開発当時はセルロイド玩具の製造と両方の仕事を行っておりました。しかし、1963年の工場火災をきっかけにセルロイド玩具からの撤退を決意して強化和紙の製造に舵を切りました。そして1973年には、セルロイド事業を連想させる社名をやめ、商品名からとった「ワーロン」に変更しました。社名と商品名を一緒にすることでブランドに必要な資源を集中させることにしたのです。
  • 聞き手:それで現在のワーロンに至るわけですね。ところで、中部のデザイナーとの交流はその頃からあったのですか?
  • ワーロン ロゴ画像
  • 渡辺:デザイナーとの交流は、社名変更に伴い社のロゴマークをどうするべきか、ということで、愛知県デザインセンター(現在閉館)に相談に行ったことがきっかけで始まりました。そこで、デザイナーをご紹介いただき、ロゴマークを制作しコーポレートカラーを決定しました。当時、「CI」という概念がアメリカから入ってきたばかりの頃で、ブランドロゴは当時からその概念を軸に運用しています。

《ブランドコンセプトの見える化とその展開》

  • 聞き手:話は少し逸れますが、香港デザインセンターが主催する2010年のBusiness of Design Week(BODW)では日本パビリオンの全体にワーロンシートが使われましたね。また、ブースも出展され、デザイナーと交流する良い機会だったのではないですか?ブランド戦略の視点からその辺についてお話しいただけますか?
  • INNO DESIGN TECH EXPO 2010
JAPAN TRADE PAVILION Hong Kong Convention and Exhibition Center写真
  • 渡辺:結果的には大変素晴らしい交流の機会を作っていただいたと思っています。実は、日頃より弊社製品をご利用いただいているデザイナーの方々にご指定いただいたことが日本パビリオン事業に参加するきっかけでした。2010年のBODWでは日本がアジアで初めてパートナー国となり、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)と公益財団法人日本デザイン振興会(JDP)(当時日本産業デザイン振興会)が日本パビリオンの主催者となりました。両主催者と日本の各デザイン団体との連携からパビリオンの素材にワーロンシートのご指定を頂いた訳です。パビリオンに使用されたワーロンシートは、約千枚を必要とする規模で金額としてもそれなりの額になりましたが、弊社ブランドをPRする意味でも協力させていただきました。当初は協力者としてパビリオンの片隅に小さく表記される程度と思っておりましたが、正式にパビリオンスポンサーとして大きく取り上げていただき、会場で配布されるパンフレットにもしっかりとブランド名、会社紹介の記事が掲載されるなどとても大切にしていただきました。
    デザイナーの方々はこのような交流事業を通じて次のビジネスに発展させる「きっかけ」をどんどん仕掛けてくださいます。チャンスをもらったら、とにかく前向きに挑戦していくことが大切だと痛感しました。そして、この展示会でディスプレイ業界の一流企業と一緒になって仕事をさせていただき、また、会議やイベントに参加した著名なデザイナーの方々とも交流できるなど、大変良い機会を得ることが出来たことに感謝しています。
  • 佐藤氏写真
  • 佐藤(企画室):国内外で開催される日本を連想する展示ブースやパビリオンには弊社の製品が採用されるケースが多いです。弊社の製品は「Wa-fu」をコンセプトに開発していますので、その点が評価され、採用いただく一番の理由になっているのではないかと考えています。
  • 聞き手:そのような「Wa-fu」空間の代表例をお教え下さい。
  • 佐藤:弊社は基本、素材を提供する立場ですから事例というのはおこがましいですが、第39回、第40回のモーターショーの展示ブースです。フランス人著名デザイナーによるデザインで、面白かったのはシートの4辺のうち3辺をフリーにし、空気が動くことによってシートをひらひら揺らすので、侘び・寂びを感じるブースに仕上がっていました。日本人以上に日本の感性を理解されたデザイナーであり、主催者、来場者からの評価も高く、世界中のモーターショーで同様な「Wa-fu」空間を展開していただきました。
  • 第40回東京モーターショー 日産自動車写真
  • 聞き手:その他に異なる形で活用された事例などありましたらお教え下さい。「Wa-fu」というコンセプトに留まらない活用事例などはあるのでしょうか?
  • 渡辺:モーターショーの展示ブース等の様に一流のデザイナーから和風素材の問い合わせを頂きますと、オーソドックスな日本を感じさせる和風本来のイメージを要求されることが多いです。
    ですから、国内から海外まで世界基準で「Wa-fu」をコンセプトに製品開発を行う状況においては、まず、ベースとなる日本らしさを追求した製品をしっかりと開発していくことが必要であると考えています。そのために、和紙メーカーは勿論ですが、様々な日本古来の技術を持った企業と連携して商品開発を行っていきたいと考えています。
    また、海外のメーカーと連携した製品開発では、さらに本来の日本のイメージを強く要求されます。開発事例を一つ上げますと、ワーロンシートを活用したブラインド開発です。ブラインドのスクリーン部分に強化和紙をご利用いただきました。配色も、日本らしい白だけでなく、他の日本の伝統色も数色採用されました。中でも、びっくりしたのは黒色を要求されたことです。障子紙で黒色を使うのは私達には違和感がありますが、西洋から見ると日本らしさを感じる色と捉えられているようです。この黒い強化和紙は国内では全く売れませんので国内の製品ラインナップには入れていません。

《ブランド戦略から見る情報発信》

  • 聞き手:海外まで行き届かせるための販促方法についてお聞きしたいのですが、現在一番力を入れている販促ツールはなんですか?その理由についてもお教え下さい。
  • 渡辺:ホームページを中心とした情報発信に力を入れています。最近弊社のホームページを刷新したばかりです。以前のものは、色々ヒアリングしてみると、「何をやっているのかわからない」という感想を頂いたこともあったので、今の時代感覚も取り入れて一気に刷新を図りました。
  • 佐藤:英文にしましても、単に英訳をするだけでなく、イメージとしての「Wa-fu」を伝えるため、漢字や日本らしいイメージをビジュアルに使用しています。
  • 渡辺:Web系の情報発信は今後、ますます重要になっていくと思います。現在、中小企業基盤整備機構の事業であるJ-Good Tech(ジェグテック)などでもWebサイトによる情報発信がベースになっています。行政の経済政策を活用するにも今やWebサイトは欠かせない広報ツールです。
  • 聞き手:製品パンフレットはとてもしっかりしていて手のかかった物ですね。その他の販促ツールについてはどのような考えでつくられているのかお教え下さい。
  • カタログ写真
  • 佐藤:弊社の製品は基本的にはBtoBですので、デザイナーを中心とした方々に製品を知っていただけるよう様々な形でアプローチしています。その中の一つに製品カタログがあります。この製品カタログはとても手間とコストがかかるのですが、必ず現物のチップサンプルをつけています。弊社の製品はその特性上、データではわからない質感など、感性に働きかける部分が大変重要であると考えています。素材に直接触れてご検討いただくことで、製品への理解が深まりアイデアが生まれ易くなると思いますので、その部分は手を抜かないようにしています。製品説明のパンフレット類は以前、名古屋市のデザイン活用支援事業を活用させていただき、地元のグラフィックデザイナーに国内版、海外版のフォーマットを作成していただきました。
    また、パンフレットに留まらず、お客様と触れ合う機会もとても大切ですので展示会についても毎年とはいきませんが、出来る限り出展して接点を見出していきたいと考えています。

《ブランドホルダーとしての経営とビジョンの構築》

  • 聞き手:国内、海外含め製品ブランドを維持していくためのアプローチについてお聞きします。まず、直接的ではないかも知れませんが、日頃の営業や製品開発等の課題を解決するために特に気をつけていることや行っていることはありますか?
  • 佐藤:弊社は現在「The Next Wa-fu」をテーマに、空間づくりや照明器具などのプロダクトとしての可能性も含め、様々な視点を取り入れ開発を行っています。そして、デザイナー等のクライアントからの考え方や情報が早期に開発につなげられる様に情報共有を図っています。
  • 渡辺:組織の面から言いますと、情報共有はとても重視しており、部門をまたいだ問題解決を図るような組織づくりを心がけています。弊社では経営会議だけで全てを解決するのではなく、各部門の担当責任者によるプロジェクトを課題に応じて組織しています。開発における会議もそういった形で行っています。また、営業の情報もリアルタイムで共有できるようにグループウエア等のシステムを整え、お客様の要望に迅速に応えられるように心がけています。
    また、組織の評価基準も大切です。例えば、弊社の場合、金沢の大型物件での話ですが、東京で折衝し東京営業所が採用にこぎつけたとします。しかし製品の納入は金沢の代理店からであり、その売上は金沢地区の営業担当者の実績となります。ですから、結果の数字だけで評価をするのではなく、そこに至るまでのプロセスを重視した評価基準にしなければいけないと思っています。
    ところで、製品開発ということで考えてみますと、素材メーカーが製品開発を行う中でデザインを取り入れるというのは難しいと考える方が多いと思います。しかし、デザインを「設計」という言葉で訳しますと、開発から販売までのどのプロセスにも「デザイン」=「設計」という概念が必要であり、デザインの重要性が理解できるのではないでしょうか。確かにデザイナーという職業は非常に専門性が問われますが、デザイナーがどのプロセスでもロマンを語ることができれば製品開発が夢から現実へとスムーズに導かれるのではないでしょうか(笑)
  • 聞き手:最近のテーマで「The Next Wa-fu」という言葉が出ましたが、最近行った学生デザインコンペも製品ブランドを維持していくためのアプローチの一つと考えて良いですか?
  • 学生デザインコンペポスター画像、展示風景写真、受賞作品写真
  • 渡辺:はい、企業は絶えず原点に立ち返って企業ドメイン、コンセプトなどを見直すことによって製品ブランドを活性化させていきます。そのためにも知恵を持つグループと協業して次世代のブランド価値を創造していくことが大切です。どこの企業もそうだと思いますが、節目のタイミングに将来に向けた何か特別な事業を行うということは考えると思います。弊社では、私が社長に就任する5年前の70周年に社史をまとめることから始めました。温故知新ではありませんが、先ず自分達がこれまで何をやってきたのかを知ることは、今後を考えていく上で大変重要であると考えたからです。
    その上で、80周年の節目には今後の展開を考えていく上での事業と位置づけ、デザイナーとの連携による作品展覧会を行いました。そして、90周年を前にした2011年にデザイナーの卵である学生を対象に、テーマを「新たな可能性」として、ワーロンシートを用いた作品を課題としたデザインコンペを開催しました。この年はワーロンシート発売50周年という節目の年でもありました。
    このコンペは一流デザイナーの審査員の方々や参加いただいた学生さんとの交流は勿論ですが、社員にとっても新しいことに取り組み、いつもの仕事とは違うノウハウを吸収する良い機会になったのではないかと思います。なかなか費用がかかることですので、簡単に毎年行うことはできませんが、一回のイベントとして終わらせてしまうのではなく、計画性を持って営業活動の連続性の一環として、今後の展開につなげていきたいですね。
  • 聞き手:今後の展開についてどのようなイメージをお持ちですか?
  • 佐藤:弊社は和風透光樹脂板というニッチな市場にこだわり続けることで、「ワーロン=強化和紙」というブランド認知度を得ています。今後も「ワーロン」ブランドの普及促進を図るべく、独自の商品を開発し続け、「いつでも、1枚からでも、どこへでも」をモットーに市場の求めるニーズに対応していきたいと考えています。
  • 渡辺:ブランドを持つ企業しては、まず本質的な商品をしっかりと固め、その追求を行っていく必要があると考えています。その上で、海外向け、国内向け、次世代向けというようにお客様のニーズに合わせた製品開発を進め、伝統的な和風空間の趣を現代風な「Wa-fu」感性に進化させ、「The Next Wa-fu」として世界中に発信していきたいですね。
  • 渡辺氏と佐藤氏の写真